90年代のオフビート映画  

Buffalo ’66

Buffalo ’66

#オフビート青春映画
#ストックホルム症候群
#ヴィンセント・ギャロ監督・主演
#クリスティーナ・リッチ
#髭とボイン

 最近気になるのが、Off-Beat(オフビート)のアメリカ映画。とりわけ、 90年代のインディペンデント映画をよく見返しています。
 オフビート映画とは、普通じゃない、unusualな日常を描いた映画。登場人物の行動が普通よりズレていて、ストーリーの展開も支離滅裂に飛び跳ねる。起承転結が曖昧で、退屈で寝落ちしそうになる。   

ジワジワ来る

 しかし、ビートに乗り切れないストーリーの流れになかで、何拍かずれてインパクトが強いシーンが急に飛び込んでくる。まるでオルタナティブ・ロックみたいな映画のジャンルだと思います。観ているこちらは、「なんの話ですのコレ !?」と突拍子の無い展開に突っ込みながら、段々と、ジワジワと、不思議に心地良くなっていくのが「オフビート映画」の魅力です。

 『ナイト・オン・ザ・プラネット( 1991年)』、『シンプルメン( 1992年)』、『トゥルー・ロマンス( 1993年)』、『恋する惑星( 1994年)』、 90年代は名作オフビートの宝庫でした。“ボーイ・ミーツ・ガール”から始まって、誰かが誰かに恋をして、勝手に勘違いをして、追いかけっこをする。誰も傷つけずにハッピーエンドで終わる映画。個人の心象風景の中の内向きの幸福を深掘りする当時の映画監督の視線が最近、特に気になります。

 本日のブログは、90年代オフビート映画の最高峰で、当時のファッション・アイコンであるヴィンセント・ギャロが監督・脚本・音楽・主演の『バッファロー‘66(1999年公開)』をご案内します。


ビリー・ブラウン(ヴィンセント・ギャロ)

 とにかく、主人公のビリー・ブラウン(ヴィンセント・ギャロ)の洋服は、目眩がするほどカッコ良い。ラグランスリーブのライダース・ジャケット、3ポケットのスラックス、サイドジップのブーツ。すべてがビリーにジャストフィットのサイズで作られている。ギャロ以外には、絶対に着こなせないスタイル。
 青みがかった鳶色の瞳、肉付きが薄い痩けた頬骨に美しいアーチの鷲鼻。無精髭と黒髪のオールバック。細身で長身、色気がぷんぷんするイタリア系アメリカン。

そんなクールなギャロが映画の冒頭シーンにおいて、内股でモジモジしながら小走りで街角を駆ける。額には脂汗、そして小刻みに震えている。銃で撃たれたのか?悪い奴に追われているのか? どこかミステリアスである。

いや違う。ミステリアスな展開ではない。今回のギャロはどうやら単純にダサイ男らしい。


尿意に耐えながら、トイレを探しているのである。

彼の膀胱がはち切れそうだ、いかん尿漏れ五秒前だ。立ち小便は彼のモラルが許さない。


街角の建物、行く先々で、丁寧な言葉遣いで「洗面所を貸しいただけませんか?」と尋ねるが、ことごとく断られる。挙動不審な彼の目つきは人々から訝しがられる。人の見た目で判断されるのはどこも同じであるが、偏見に満ちた世知辛いシーンにイラッとし、彼の境遇に肩入れしたくなる。
 
 ミュージシャンで画家・写真家、モデル・俳優、「 SWITCH」、「 CUT」、「 GQ Japan」の表紙を独占していた90年代のファッションアイコン、ヴィンセント・ギャロ。マルチな才能、どんなにダサくても、面倒臭くても、彼の魅力は、 20年を過ぎた2020年代の今も色褪せない。


映画予告

 映画予告編の BGMは、 Yesの「 Heart of the Sunrise」。
 ハイテンションのプログレをバックに映画のカット割りを切り貼りでつないだコマ送り映像。さらに 60年代っぽい、ざらついたフィルムのアナログの質感にシビれた。


レイラ(クリスティーナ・リッチ)

映画のキャッチコピーは「最悪の俺に、とびっきりの天使がやって来た」。

 そんなとびっきりの天使、ビリーの恋人役「レイラ」を演じるのがクリスティーナ・リッチ。小柄なんだけどグラマラスで、無口で小悪魔的で、コケティッシュな魅力で普通の男はクラクラしそうになる(日本で言えば、誰になるのか、小泉今日子さん? 有村架純さん? でも、ギャロ役は北村一輝さんが一番似合うと思う)。

 彼女はブリーチした髪に派手な金髪を染め、ラメ入りのブルーアイシャドウを瞼に濃く塗り込む。淡いソーダーブルーのキャミソールに薄手な化繊素材のカーディガンを野暮ったく羽織る。中西部田舎町のショッピングモールで買い揃えたファスト・ファッションが彼女のドレスコードなのか。

 そして、彼女の自家用車の車内は殺伐としていて、ゴミが散乱している。ファストフードの包み紙だとか、食べ残しだとか、色々と転がっている。

失礼な言い方ですが、彼女にはどこかに隙がある。観ているこちら側は、近い将来に悪い男にひどい目に遭わされないか心配になる。


ストーリー(あらすじ)

 映画のイントロ部分だけ紹介させてください(ネタバレは極力に避けます)。

 ビリーは漏れそうな尿意に耐え、ようやく忍び込んだダンス教室のトイレにて苦痛から放尿のカタルシスを経て、正気に戻る。その帰りすがらに、信じられない行動に出る。

何と、唐突に、無慈悲にも、放尿のカタルシス現場の隣でダンスレッスンを受けていたレイラを誘拐する。全くのノープランで彼女を後ろ手で羽交い締めにして、「音無しくしろ! 黙って言うことを聞け!」と脅す。



ビリーの目はイカれている。正気ではない。多分。そんな気がする。
「レイラ、逃げるのだ!」と叫びたくなる。


だから言わんこっちゃ無い。
「レイラはん、気をつけなはれや!」と僕は前から言ってましたでしょと。 

知らない男に隙を見せてはいけないと。

石野真子さんも言ってたでしょ。「男はみんな、オオカミなんです!」  

ビリーに誘拐されたレイラは、何度も逃げ出せるチャンスがあった。しかし、彼女は逃げない。そして、時折にビリーに微笑み返す。これこそが「ストックホルム症候群」なのか?





ここから先は、本作を是非にご覧ください。  

数年前までアマゾン・プライムで配信していたのですが、残念ながら今はレンタル DVDでしかご視聴になれません。アラフィフの同世代の皆様には、90年代のあの頃を思い出して、是非是非に観て欲しいです。


 最後に、「最悪の俺に、とびっきりの天使がやってきた」の映画キャッチコピーは、本当にその通りでした。クリスティーナ・リッチは、「とびっきりの女神」でした。

本作のビリーとレイラの関係はどこか既視感がある。そうだ、あの漫画だ! 「ヒゲとボイン」だ!
小島功先生のビックコミックオリジナルで連載していたコミック「ヒゲとボイン」を読み返したくなりました。

 最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。



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